質量分析
*この記事は、roche.comで公開された記事の翻訳版です。原文は
イノベーションはロシュの活動の原動力です。世界をリードする診断薬メーカーとして、人々の健康と社会のために科学の進歩を追及し続けること、それが私たちの使命だと考えています。
ロシュは、より少ないリソースでより多くの成果を出せる、変化に強く将来を見据えた臨床検査室を構築することで、診断を革新します。医師の診断をサポートし、人々の健康と豊かな生活に貢献することを目指しています。
将来の医療問題を解決するには、持続可能で、利用しやすく、そして費用対効果に優れた方法で、今の医療の仕組みを改善していく必要があります。
質量分析への参入
質量分析は、臨床検査室で広く活用されている有用な分析技術です。内分泌学におけるステロイドホルモン検査、ビタミンD検査、免疫抑制剤や治療薬のモニタリングなど、特定の臨床状況において用いられています。質量分析の高い特異性と感度により、医師はより詳細な検査結果を得ることができ、結果として、正確かつ精密なデータに基づいた診断と治療を患者さんに届けることができます。
特定の臨床状況において質量分析は検査の「ゴールドスタンダード」とされているものの1、十分に普及しているとは言えません。その理由として、検査の工程が複雑で、他の機器との統合や検査プロセスの標準化が難しく、高度な専門技術を習得したスタッフを必要とするためです。フルオートメーションとプロセスの標準化を実現した質量分析装置はこれまで存在していませんでした。
ロシュは、長年のパートナーである 株式会社日立ハイテクと協力し、質量分析を自動化・統合・標準化する技術を開発しました。これにより、これまで専門的な検査手法であった質量分析を、臨床検査室の日常業務に取り入れることが可能になりました。
この技術は、検体前処理から分離作業、質量分析による解析、そして結果の解釈まで を合理的な一つのワークフローに統合しています。自動化により、正確かつ高精度な分析結果を迅速に得ることができ、検査室の生産性と効率が大幅に向上します。
本装置の特徴:
自動化により、処理能力(スループット)が向上し、検体処理から結果提供までを迅速に行うことができます。ワークフローの最適化とバッチ処理の廃止により、サンプリングに伴う待ち時間を解消できます。検体のハンドリングが迅速かつ簡便になることで、スタッフの業務時間を確保し、人員不足の解消やヒューマンエラーのリスクを低減することに寄与します。高 度なスキルを持つスタッフが、より付加価値の高い業務に注力できるようになります。また、感染性物質との接触を最小限に抑えられ、安全な作業環境が確保されます。
検査室の個別のニーズに応じ、既存の設備とスムーズな連携を実現するのが統合的ソリューションです。ロシュの技術は、生化学、免疫、ISE、質量分析などの多岐にわたる検査を組み合わせることで検査室の効率を最大限に引き出し、業務を支援します。
検査室では日々、多種多様な機器の組み合わせ、検査前工程、分析方法、データ取得条件、キャリブレーション・精度管理、結果の解釈に直面しおり、施設間や機器間での結果比較が難しい状況にあります2-3。ロシュの技術は、すべての検査が基準となる測定法に準拠しており、場所や時間によらず結果の整合性を保ちます。
効率性と業務の最適化によって、質量分析は専門的な検査室だけのものではなくなり、世界中のより多くの施設で利用できるようになります。その結果、必要とされる現場で患者さんのケアを向上させることが可能になります。
患者さんへの貢献を目指して
ロシュの技術は、世界中の人々の生活に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。検体採取から結果までの待ち時間を短縮することで、医師はより迅速に病状を診断できるようになり、患者さんのケアを向上させるための迅速な処置を行うことができるようになります。
また、初期の段階でより正確な診断情報が得られれば、再検査の負担が減り、結果を待つ間の不安な期間が短縮され、病気の早期発見につながる可能性があります。患者さんがいち早く適切な処置を受けられれば、病後の経過や順調な回復が期待できます。
質量分析がより身近になることで、より多くの人々が正確かつ迅速な意思決定のサポートを受けられるようになり、最終的には医療システム全体の質の向上にも貢献します。
期待される質量分析の活用例:
質量分析によって得られる患者さんのホルモンプロファイルは、乳がんや前立腺がんなどの特定のがん治療を把握し、より個別化された治療を提供する上で非常に重要です。
質量分析は、異なる種類のビタミンDを正確に識別し、機能的なビタミンD欠乏症の特定や、患者さん個別のビタミンDの状態の評価をサポートします。特に妊婦、新生児、腎臓疾患患者さん、集中治療中の患者さんなど、特定の患者グループにおいて、治療を個別化していく上で重要な情報となります。
PCOSは診断が難しいことで知られており、世界中のPCOS患者さんの70%は、自身の健康を阻害する症状の原因を知らないまま苦しんでいると推定されています4。質量分析による迅速かつ信頼性の高い検査は、現時点で十分な治療選択肢がない症状であっても、早期の適切なケアや患者さんの生活の質の向上に繋げられることが期待されます5。
小児科で行われる従来の免疫検査では、エストラジオールやテストステロンなどの特定のホルモンレベルの識別が難しい場合があります。子どもの体内で何が起こっているのかを迅速に特定できれば、より早く、より適切な治療につながります。
高血圧患者さんの5~10%は、十分に認識されていないホルモンバランス異常である原発性アルドステロン症(PA)が根本原因であると言われています6。以前は稀だと考えられていましたが、新たな研究によると、PAが高血圧患者さんの5~13%、治療抵抗性高血圧患者さんの最大30%に影響を及ぼしていることが示されました7。アルドステロンは極めて微量しか検出されないため測定が困難ですが、早期に発見・診断できれば、効果のない降圧剤を試す時間や労力をかけずに、心血管イベントのリスクを大幅に低減できます。
臓器移植は多くの命を救う重要な医療ですが、術後、免疫システムが移植臓器を異物として攻撃するのを防ぐため、免疫抑制剤の服用が不可欠です。質量分析は、患者さんの血中免疫抑制剤濃度を高い精度で測定し、適切な投与量を割り出すことができます。
結核は罹患率の高い疾患であり、抗菌薬リネゾリドを用いた治療が有効ですが、患者さんごとに最適な投与量を決めるのが非常に難しいという課題があります。質量分析により、正確な治療薬の治療薬血中濃度モニタリング(TDM)が可能になり、投与量が適切かどうか、あるいは調整すべきか否かが分かります。これは、患者さんの薬剤関連有害事象のリスクを軽減するだけでなく、グラム陽性耐性菌の出現を抑制するのにも役立ちます。
質量分析によるTDMは、適切な投与量を把握するために役立ちます。特に重症患者への抗生物質投与においては、投与量の調整が非常に難しく、過量投与による副作用のリスクと、過少投与による治療効果の低下という、二つの課題があります。実際、重篤な患者さんの約40~60%は、治療に必要な薬の血中濃度に達しておらず9、治療効果や菌消失率の低下につながっています。そのため、TDMは投与量が不足しないように活用され、薬剤耐性の拡大を防ぐ上で、重要な役割を担っています。
さらに詳しい情報について
質量分析、そして世界中の臨床医や患者さんへの貢献を目指すロシュのイノベーションについて、関連情報をぜひご覧ください。
参考文献:
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