それは、12月も半ばを過ぎたある日の深夜2時頃のこと。眠っていた奈良さんは、不意に胃のみぞおちや胸の辺りに不調を感じ、目を覚まします。「針でチクチク刺されるような違和感がありました。胃薬を飲んだのですが、一向に収まる気配がありません。そのうち背中(左胸の後ろ側)にも、痺れと痛みが混じったような鈍い痛みを感じ始めました。」奈良さんは妻の甚子さんを起こして血圧を見てもらいます。「するといつもは上が130、下が90くらいなのに、そのときは上が90で下は50くらい。脈拍も通常70前後のところが40前後と、普段よりずっと低い数値が出たんです。」その間にも、痛みはますますつらくなっていきます。「これは異常だと思い、妻に助けてもらって、掛かりつけの病院の夜間診察に駆け込みま した。」それまで大病を患ったことがなかった奈良さんは、人生で初めて経験するほどの不安を覚えたそうです。
奈良さんが病院に着くと、即座に当直医の先生による診察が行われました。「診察が始まってすぐ、先生から『奈良さん、これは入院が必要になるかもしれません』と言われたのを覚えています。」そこから心電図検査、血液検査、レントゲン検査、そしてPCR検査と矢継ぎ早に検査が行われました。「心電図検査の直後から、先生の話し方や周囲の動きが慌ただしく感じられ、やはりこれはただごとではないのかもしれないと思いました。」診察台の上で仰向けになっていた奈良さんは、身体の痛みで意識が薄れていたせいか、このときのことをはっきりとは覚えていないそうです。
検査の結果、急性心筋梗塞の確定診断が下り、すぐに緊急手術を行う必要があることが、妻の甚子さんに告げられました。