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ロシュが導く病理検査の未来|すべての患者さんに、質の高い診断を届けるために

患者さんの体から採取した組織や細胞を観察し、病気の診断を下す「病理診断」。特にがんの診断においては、良性か悪性か、どのような種類のがんかを見極めるために不可欠であり、患者さんの治療方針を決定づける羅針盤とも言える重要な役割を担っています。

ロシュの病理部門は、その前身であるベンタナ社の設立から今年で40周年を迎えました。この節目にロシュは、病理診断におけるワークフローの改善、検査の迅速化、効率化、そして、より客観性ある診断に貢献する『デジタルパソロジー』製品の導入を果たしました。マーケティング本部でデジタル製品をリードする富樫さんに、その最前線を聞きました。

病理診断が抱える課題に、デジタルの光を


――まず、ロシュが今、『デジタルパソロジー』に注力する背景には、どのような社会的・医療的な課題があるのでしょうか?

日本の医療現場は、専門医不足や地域による医療格差といった大きな課題を抱えています。これは、遠い未来の話ではなく、今まさに乗り越えるべき重要な課題です。特に病理医の不足は深刻1)で、常勤の病理医がいない、あるいは一人しかいない病院も珍しくありません。

そうした病院では、非常勤の医師が遠方から診断に訪れたり、患者さんの大切な病理標本を、専門医のいる施設へ郵送したりしているのが実情です。

これは患者さんにとって、診断を待つ時間が長引いたり、遠方への通院を余儀なくされたりと、精神的・身体的・経済的な負担に直結し、生活の質(QOL)を大きく損なうことにも繋がりかねません。また、診断を担う病理医にとっても、孤立した環境で一人ですべての診断責任を負うことは、大きなプレッシャーとなります。

――その本質的な課題に対する解決策が、『デジタルパソロジー』なのですね。

はい。『デジタルパソロジー』とは、病理標本をスキャナーで高精細なデジタル画像に変換し、その画像を診断、教育、研究等、病理の諸活動に活用することです。物理的な標本が、いつでもどこへでも送れるデータに変わることで、病理診断の在り方を根底から変える可能性を秘めています。

これにより、病理医がいない地域の病院にある標本も、専門医がオンラインで画像にアクセスし、迅速な診断を行うことが可能になります。医療DXが推進される中、病理領域においてもデジタル化の重要性はますます高まっており、ロシュはこうした社会の変化に対して柔軟に取り組んでいます。

顕微鏡からモニターへ、診断の常識を変える


――ロシュが今年導入した製品について、詳しく教えてください。

ロシュはこのほど、病理スライドをデジタル化するスキャナー製品について、新たに管理医療機器としての製造販売承認を取得しました。これにより、顕微鏡との併用が必須だった診断が、デジタル画像のみで行えるようになりました。

モニター上では、顕微鏡で見るような自然な色合いを再現し、組織の細部を自由に拡大したり、異なる染色を施した複数の標本を一つの画面に並べて比較したりすることも簡単です。また、診断が難しい症例では、複数の専門医が同時に同じ画像を閲覧しながら議論することも可能です。

――病理医の日々の業務は具体的にどう変わりますか?

オンラインで地理的な制約がなくなるため、例えば、北海道、東京、沖縄の専門医が、リアルタイムで同じ画像を見ながら意見交換ができます。これにより、一人の医師が抱える負担が軽減されるだけでなく、診断の精度の向上にも繋がります。また、自宅からでも自施設の標本画像を確認・診断できる環境を整えることも可能になり、医師の働き方改革や医療体制に、新たな選択肢を提供できるでしょう。病理医を顕微鏡の前から解放し、より柔軟な働き方を実現する、大きな一歩です。

染色から解析まで、トータルソリューションを


――『デジタルパソロジー』の領域には様々な企業が参入していますが、その中でロシュならではの強みは何でしょうか?

まず、病理検査の製品を扱っているメーカーが開発した、というのが強みの一つだと思います。そのため、病理診断のプロセスを最初から最後まで、一貫してサポートできることです。標本を『染める』自動染色装置。高精細な画像に『デジタル化する』スキャナー。そして画像を『解析する』アルゴリズムまで。ロシュは、これらの診断のプロセスに必要な製品群をすべて提供できる、唯一のメーカーです。スムーズに連携したトータルソリューションで、質の高い診断を安定的に支えることができます。

目指すのは『技術の提供』だけではなく『持続可能な医療』への貢献

――ロシュはこの先、どのような未来を描いていますか?

私たちは、単に効率を上げるためのツールを提供したいわけではありません。この技術を通じて、病理診断が抱える本質的な課題を解決し、医療全体の質を高めたいのです。

たとえば、専門家が集い、判断が難しい症例を持ち寄ってリアルタイムで意見交換ができるような環境の実現です。専門家の知見を特定の病院に留めず、いわば『匠の技』として共有する機会を創出します。全国の医師の方々が連携する『チーム医療』や『コンソーシアム構想』を支援することで、診療全体の質の向上と診断の標準化に貢献できればと思います。

『日本中のどこにいても、誰もが遅れることなく質の高い病理診断を受けられる』、そんな未来を実現したいです。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

ロシュは常に時代の半歩先を見据え、社会課題の解決に真正面から取り組んできました。私たちの事業は、一つひとつの製品の先にいる、数多くの患者さんの人生に繋がっています。製品の提供だけでなく、病理現場のあらゆるニーズに寄り添う、包括的なパートナーでありたいと考えています。

『デジタルパソロジー』の導入は、私たちにとって壮大な旅の入り口に過ぎません。これからも医療全体のために、そして患者さんのために、デジタルの力を掛け合わせ、診断の未来を切り拓いていきたいと思います。

1)2025年4月8日現在、全国の病理専門医数は2,789名
(日本病理学会ホームページ :https://pathology.or.jp/senmoni/board-certified.html