多くの人が罹患するがんや感染症、心不全などの検査薬は、ロシュが提供する製品群においてとくに重要度の高い分野です。なかでも心不全は、超高齢社会や食生活の欧米化などが影響し、とりわけ患者数が増加傾向にあります。循環器や脳神経系のマーケティンググループに所属する櫻井さんに、心不全を取り巻く現状や、予防に対するロシュの貢献について聞きました。
――櫻井さんは、ロシュに入社してもうすぐ20年だそうですね。まずは、これまでのキャリアを聞かせてください。
マーケティングの仕事をしていますが、実は私も臨床検査技師の資格を持っています。資格を生かすことができて、医療分野での自分の可能性も広げられるのではないかと考え、新卒で診断薬メーカーに就職をしました。そこではおもに感染症のポイント・オブ・ケア・テスティング(患者さんのそばで、医療従事者が行う検査のこと)を担当していました。この経験を活かし て、ロシュに入社してからもポイント・オブ・ケア・テスティングのマーケティングを担当。循環器疾患の検査項目を導入することになったタイミングで、心不全に携わるようになりました。以降20年近く、同じ分野に携わっています。
マーケティング担当というポジションは変わりませんすが、セールスへの関わり方は少しずつ変わってきました。最初のうちは製品の特長から効果的な販売方法を考えるのが主なアプローチでしたが、この数年は「心不全や他の疾患に対して、社会や医療が抱えている課題は何だろう? それを解決するために、ロシュは何ができるだろうか」という目線を大切にしています。プロダクトありきではなく、課題ありきでロシュが貢献できる内容を検討していくイメージです。
――そもそも櫻井さんがチームで担当している「心不全」とは、具体的にどのような疾患なのでしょうか。
心不全とは「病態(病気の状態)」をあらわしているもので、ガイドラインでは一般向けには「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん体の状況が悪くなって、命を縮める病気」などと定義しています。つまり、心筋梗塞や高血圧、糖尿病といったさまざまな疾患に よって心臓の働きが悪くなることで、心不全という状態に陥るのです。高齢者だけの病態だと思われがちですが、生活習慣病などとも密接につながっていて、若い人にも無関係ではありません。
ただし、心臓の働きは少しずつ悪くなっていくものなので、リスクがあるということを早めに把握できれば、本格的な心不全を起こす前に予防が可能です。体質や環境の要素も大きいがんや感染症に比べると、生活習慣のコントロールによって発生のリスクを抑えやすいともいえます。だからこそ検査が大事ですし、役に立つのです。
いずれにせよ、大切なのは「症状が出る前に状態を把握すること」と「症状を次の段階に進ませないこと」だといえるでしょう。
――社会の変化によって、昨今はとくに心不全の検査の重要性が高まっていると聞きます。
日本の医療現場では、心不全患者の増加による医療体制の逼迫、いわゆる心不全パンデミックが起きるのではないかという危機感が高まってきています。背景はやはり、超高齢社会化が進んでいること。また、食生活の欧米化によって日常の塩分摂取量が増え、身体に負担がかかっていることも、心不全の増加につながっていると見られています。マーケティングの仕事をしているなかでも、患者数の増加は実感していますね。これは医療コストの圧迫や人材不足にもつながる、見過ごせない問題です。
日常生活の制限や介護を必要とせずに暮らせる「健康寿命」と「平均寿命」には男女ともに10年前後の差がありますが、寝たきりになってしまう一番の要因は脳・心臓血管疾患といわれています。だとしたら、心不全の検査と予防を適切に取り入れることは、健康寿命の延伸にもいい影響をもたらすはず。そうした観点においても、じつは重要度の高い検査なのです。
――心不全パンデミックが心配されるほどの現状において、ロシュの心不全に関連する製品にはどのような特色がありますか? また、社会にどんな貢献ができると思われますか?
ロシュには2007年から販売している心不全バイオマーカー「NT-proBNP」を測定する検査薬があります。NT-proBNPは、心臓に負荷がかかると血中に出てくる物質です。この値を調べることで、心臓にどの程度の負荷がかかっているのかが数字で明らかになり、「このままだと心不全になるリスクがある」ということを客観的に把握できるのです。微量の血液で測定できるため、ほかの検査用に採血したときの残余検体を使うこともできます。採血をし直す必要がないため、患者さんの負担が低く、現場のコストパフォーマンスが非常に高いといえます。また、ロシュではさまざまなポートフォリオを揃えているのも特長です。大規模病院の中央検査室でお使いいただける大型の分析装置から、病室や災害時などに患者さんの側ですぐに測定できる小型の装置まで、目的や場所に応じてさまざまなニーズを満たす製品を提供しているのは大きな強みだと思いますね。
――ただ、将来の予防を目的とした検査を普及させるのは、ややハードルが高そうです。
確かに「病気になるリスクを見つけ、予防するための検査」である以上、ハードルは若干高いかもしれません。でも、健康診断のときに心不全バイオマーカーの検査を足してみたり、糖尿病や高血圧のような生活習慣病のある方が追加で受けたりするなど、ちょっとした機会を逃さず検査をしていけば、リスクを早めに発見できるケースは少なくないと思います。そうした情報を地道に伝え、検査の有用性を知っていただくのもマーケティングの仕事です。
――検査の啓発や浸透のため、櫻井さんはいまどのような活動に力を入れているのでしょうか。
ロシュとして、NT-proBNPのような心不全マーカーを活用して、前心不全段階での発見や悪化の防止につなげる、心不全の啓発活動に力を入れています。また、健診などでNT-proBNP検査を受けてもらい高い値がでたらクリニックや病院で精密検査をして、値に応じて生活習慣の改善や治療を行う流れの確立に向けて動いているところです。
心不全マーカーの検査が特定健診の項目に入るのが、心不全予防にとってはいちばん理想的なので、その活動にも力を入れ始めました。新しい法律も整備されてきて、国も予算を確保する方向に動いてきているため、追い風を感じています。さらに、ロシュとして日本循環器協会などにも参加して、社内だけではなく先生方や関連企業とともに、心不全啓発について患者目線での議論を進めています。
――最後に、櫻井さんの今後の目標や活動の展望について聞かせてください。
これまでどおり心不全予防の啓発に力を入れていくのはもちろんですが、どんな製品をどう届けていくかも見直していきたいと思っています。ロシュがいま扱っている製品だけにとどまらず、心不全の患者さんや心不全の疑いがある方、医療現場の方々が「いま何に困っているのか?」を汲み取って、最適な解決策を届けていけるようになりたいです。そのためには、ニーズの吸い上げがとても重要。できるだけ現場に足を運び、医療関係者や患者さんなどさまざまな方の声を聞きながら、世の中が求めるものを見出していきたいと思っています。関連企業や団体などとの連携を強めているのも、その活動の一環です。
ロシュで働いていてうれしいのは、仕事の成果が患者さんのQOLや医療現場に貢献し、Win-Winを生むこと。「医療が求めていたけれどこれまでなかったもの」を具現化して、製品として導入することができたときに、大きなやりがいを感じます。これからもそのWin-Winを大きくできるよう、多様な方法を考えていきたいですね。
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