ジェンダー平等を切り拓いた、ロシュの女性たち

勇気があり、現状に疑問を投げかけながら進んでいく――そのように人々のロールモデルとなる女性は、常にロシュでも活躍してきました。

錠剤がパッケージに落ちるとき、カサカサという音がかすかに響きます。薬の匂いが漂うなか、窓からはときおり、そよ風――。1926年、スイスのバーゼルにあるロシュの包装室で、白いコートとフードを身に着けた女性が、真剣な表情で働いていました。

工業化が進み、多くの女性が労働者となったこの年代。夫だけの働きでは、家族を十分に養うのが難しい時代が訪れていたのです。

ロシュの歴史記録には「ロシュでは1896年の創立時から、女性が働いていました。しかしそれは、主に製造や包装現場、あるいは秘書としてでした」とあります。当時はこれらのポジションが、女性が会社で昇進できる場所だったのです。そのころはまだ珍しかった大学の学位を持っている女性でさえ、就職で有利になることはありませんでした。今では想像もつかないことですが、これがスイスのロシュだけでなく、ヨーロッパ全体の状況だったのです。

そんななか、ロシュでは1920年代に、これまでの「女性の仕事」の枠には収まらない女性が登場します。最終的に、上級役員まで登りつめたアリス・ケラーです。

それをサポートしたのは、当時会社を率いていたエミル・C・バレルでした。1926年、エミルは経済学の博士号を持つアリスを、日本の東京に派遣。アリスは製品の発売やスイス・バーゼルとのやり取りを担当し、1929年には女性として初めての上級管理職になりました。当時としては、センセーショナルな出来事でした。

しかし、続く1940年代から1980年代にかけて、ロシュにおける女性の進出は速いとは言えませんでした。専門職の世界は男性に支配されており、保守的なスイスにおいて、ジェンダー平等の話題が公の場で議論されることはほとんどなかったのです。

1990年代の初めになり、エティエンネット・ヴェレィによって男女の機会均等のためのオフィスが創設されたことで、ようやくロシュでの流れが変わります。彼女の最大の功績の1つは、従業員の子どもたちのための託児所を創設したことです。

ほんの数十年前、職場における女性の役割は現代と比べ、とても小さいものでした。それでも自分たちの立場を守り、平等への道を切り拓いた女性たちを、ここからご紹介していきます。

アニー・シュワルツ博士:秘書から副所長へ

1923年、アニー・シュワルツはまだ若く、必死に仕事を探していました。第一次世界大戦後、多くの人々と同様に、彼女の両親は財政難に陥り、アニーの収入に依存していたのです。幸いなことに、アニーの父親には、バーゼルのロシュで働いていたR.ベーリンガー博士という友人がいました。博士は、当時会社を率いていたエミル・C・バレルに、アニーを推薦してくれたのです。経済学の博士号を取得しようとしていたアニー・シュワルツは、秘書としてロシュに雇われることになりました。

35年後、アニーは購買部門の副部長に昇進しました。彼女は1987年のインタビューで、ロシュでの日々について次のようにコメントしています。「意志あるところに道は拓けると言いますが、戦時下での経済に関しても、まさに同じ状況でした。ロシュの経営や購買において『不可能』という言葉はありませんでした」――当時の状況を考えると、彼女の出世は華々しいものでした。アニー・シュワルツは、まさに不可能を可能にした人物の一人です。

ヒルデ・ファルツ博士:根気のあるシングルマザー

1929年4月1日、バーゼル。36歳のヒルデ・ファルツは自信を持ちながらも、心もとない足取りで、ロシュの検査技師としての初日を迎えました。彼女は、自分の仕事が簡単なものではないことをすでに感じていました。1987年のインタビューで彼女は「2つの世界大戦のはざまとなる時期、子どもと学歴のある女性が仕事に出ることに対し、世間の目はとても冷たかった」と説明しています。小さな男の子を一人で育てる未亡人として、彼女自身も周りからの冷遇と戦ってきたのです。

周囲に難色を示されながらも、彼女は足を引っ張られないよう努力し、1956年の退職まで精力的に働き続けました。そして、働く女性の状況も少しずつ改善されていきました。彼女の根気強さは、今日でも印象的です。

エリカ・ベーニ博士:研究開発で辣腕を振るう

1969年に米国で開催された医学会議で講演をした後、エリカ・ベーニは次のように日記を記しています。「シンプルな言葉と新しいイメージを用いた私の講義には、誰もが満足していました。『あなたの全ての言葉を理解できた』と、私に伝えてくれた女性もいました」

エリカ・ベーニは自信に満ち溢れていました、そして、実際に有能な女性だったのです。彼女は化学療法剤のバクトリムと広域抗生物質のロセフィンの開発において、重要な役割を果たしました。これらの医薬品はWHOの必須医薬品のモデルリストにも掲載され、何億人もの人々に恩恵をもたらしました。

1987年、彼女はロシュでの33年間について次のように語っています。

「会社人生のハイライトは、化学療法剤バクトリムに関する研究開発作業です。2つの有効成分であるトリメトプリムとスルファメトキサゾールの相互増強効果は、当時、新しくセンセーショナルなものでした。細菌学者がそれを認めるまで、周りの人々は信じていなかったほどです。その研究開発に携わった日々は、本当にすばらしい、エキサイティングな時間でした」

「男女平等はまだ100年先」。これは、広く引用されている世界経済フォーラム(WEF)によるジェンダーギャップレポートの結論です。2019年に発行されたこのレポートは、合計153か国を分析しています。男女格差はどの国にも残っており、アイスランド、ノルウェー、フィンランドなど、ジェンダー平等の先進国でもそう言えます。

2020年の世界の男女格差スコアは68.6%。これは、埋めるべき残りのギャップが現在31.4%であることを意味します。

ただ、2019年の進歩が2018年よりも大幅に大きくなり、より広範囲に及んでいるというポジティブな流れもあります。また、149の対象国・地域のうち、101の国と地域でスコアが改善されました。しかし、この問題はまだ解決されていません。これまでのところ、男女平等を完全に達成した国はまだないのです。

ロシュでは2000年代初頭以降、ジェンダー平等の勢いが増しています。重要な要素の1つは、柔軟な働き方です。パートタイム、在宅勤務、ジョブシェアリングといったフレキシブルな働き方は、女性と男性の双方にとって、家族とキャリアのバランスをとるためのより良い環境を作り出しています。

とはいっても、解決すべき課題は、まだまだ少なくありません。ジェンダー平等を追求するため、ロシュはこれからもさまざまな支援を行っていきます。

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原文はこちら(ロシュグループサイト)

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