ロシュでは、グループの中核戦略のひとつとして「個別化医療」に取り組んでいます。

個別化医療とは、患者さんのタイプに合わせて、最適な治療法を選択することです。同じ病気だからといって同じ薬を投与するのではなく、その患者さんの身体の状態や病気の原因に合わせて、よりマッチした治療法を選ぶことです。とくに、がんの分野で活用されています。

そうした個別化医療を可能にするのは、患者さんの身体の状態や病気の原因を調べる「コンパニオン診断薬」の存在です。どのような薬がどのように活用され、どう個別化医療を推進しているのか? ロシュで病理分野の検査薬のマーケティングに携わる鳥巣さんに、お話を伺いました。

患者さんの身体の状態やがんの種類に合わせて、最適な治療法を選ぶ「個別化医療」

個別化医療、インタビュー画像

――まず、「個別化医療」とはどんなものなのか、詳しく教えてください。

 

たとえば、以前は「手術ができない肺がん」だと診断されたら、誰もが同じ化学療法や放射線の治療を進めていました。でも、じつは同じ肺がんでも、原因はさまざまであり、遺伝子やタンパクなどの分子の違いにより、特定の薬が効きやすいタイプの人がいるということがわかってきたんです。検査薬を用いてそうしたデータを事前に検査しておくことで、それぞれの患者さんにとって最適な治療方法を選ぶのが「個別化医療」です。

――「Aという遺伝子が原因であるがん患者さんにはBの薬が効くけれど、Cという遺伝子が原因の人にはDの薬がいい。また、Eというタンパク質に関連した肺がんなら、Fの薬が合う」といったことがわかりはじめ、より自分に合った医療が受けられるようになったんですね。

 

そうです。特定の遺伝子やタンパクが原因のがんに対して高い効果が期待できる「分子標的治療薬」という薬があります。その薬が使えるかどうか確認するための「コンパニオン診断薬」と呼ばれる検査薬があり、医薬品の投与前に検査を行うことで、それぞれの患者さんにあった医薬品を選択することができます。

 

これまでの抗がん剤などは、がん細胞以外の細胞にも攻撃をしてしまうため、副作用として髪の毛が抜けたりすることがめずらしくありませんでした。これは、がん細胞と同じく分裂が活発な細胞である毛根細胞などにも薬の作用が及んでしまった結果です。しかし、分子標的薬はもっとターゲットを狭めて、「特定のタンパク質を持ったがん細胞のみに攻撃する」といったことが可能です。原因を特定して狙い撃ちできるようになったため、治療がぐっと効率的になりました。ステージ4で脳にまで転移していたがんが、分子標的薬によってほとんど消えたという例も聞かれるほどです。

病理医の補助的な役割だった「検査薬」から、診断そのものを支える「コンパニオン診断薬」へ

個別化医療 ロシュ 画像

――次に、ロシュが扱っている「コンパニオン診断薬」について詳しく教えてください。

 

コンパニオン診断薬の多くは、主に病理検査で使われています。病理検査は、患者さんから組織や細胞を採取し、その検体の状態や性質を調べる検査です。

 

――どのように検体の性質を調べるのですか?

旧来の病理診断における「検査」は、顕微鏡で観察しやすいように検査薬で検体を染色し、それを病理医が、細胞の形態などを観察することで、悪性なのか良性なのか、乳癌なのか肺癌なのか、といったことを診断するためのもので、病理医の診断の補助としての役割がメインでした。

 

近年新たな概念として生まれたのが、特定の医薬品の効果や副作用をあらかじめ判断する「コンパニオン診断薬」です。このコンパニオン診断薬を病理検査に用いることで、一人ひとりにとって高い効果が期待できる分子標的薬を絞り込むことができます。診断の補助的な役割から、ベストな薬を選ぶ “判断そのもの” を支える役割へ変化したといえるでしょう。ロシュはこのコンパニオン診断薬の研究開発に力を入れています。

 

――コンパニオン診断薬の研究開発において、ロシュならではの強みはありますか?

製薬会社を含むさまざまなグループ会社と連携して、分子標的薬が研究される初期段階から、その治療につながる製品開発を進めていることでしょうか。分子標的薬ができてから、その薬が使える患者さんを選別するコンパニオン診断薬を作り始めていては、タイムラグが生まれてしまいます。医薬品の初期段階から診断を見据えて開発しているロシュだからこそ、スピーディーに、新しい分子標的薬に合わせたコンパニオン診断薬を作り続けていられるのだと思います。

「その患者さんのそのがんに効く薬」を届けるやりがい

個別化医療、「その患者さんのそのがんに効く薬」を届けるやりがい イメージ

――鳥巣さんの業務について、詳しく教えていただけますか。

 

海外の製造元で開発された製品を、日本の市場に展開していくためのマーケティングを担当しています。たとえばアメリカと日本では、がんと診断を受けたあとに進んでいく検査のフローが異なっているものもあるんですね。そうすると、検査が行われるタイミングも変わる。極端なことを言えば、アメリカと同じ使い方をしてしまうと、日本では保険が適用されないケースが起きたりもするのです。現場でそうしたズレが生じないように、製品に添えるメッセージを考えたり、正しく使っていただくための情報提供を行ったりしています。

――たとえば、どのような情報提供がなされているのでしょうか。

 

検査薬で染色した組織や細胞の観察の仕方や、陽性または陰性のどちらと判断すべきなのか、などについて、検査薬をお使いになる病理医の先生や臨床検査技師の方に正しくご理解いただくために情報提供をしています。海外の製造元で製品開発に携わっている病理医を招いて、日本で病理診断に関わる先生方に判定の仕方についてトレーニングをしていただく……といったこともありますね。

個別化医療 インタビュー 画像

――個別化医療に関わる製品を担当するにあたって、鳥巣さんはどんなやりがいを感じていますか。

 

“その患者さんのそのがんに効く薬”をちゃんと届けられることに、とてもやりがいを感じています。いままでなら手術もできずに半年で亡くなってしまっていたような病状の方が、ほぼ寛解することがあるくらい、分子標的薬は発達してきています。がんを直接治すのはそういった医薬品ですが、個人個人にあった”効く医薬品を選ぶ”のが、私たちのコンパニオン診断薬です。「コンパニオン(親密な相手役)」という名のとおり、医薬品の効果を最大限に発揮するための一番のパートナーだと感じています。

どんな地域にもこうした検査が行き届き、どこの病院にかかっても患者さんが最適な検査と診断、治療が得られるように、私たちもコンパニオン診断薬の普及や標準化に力を尽くしていきたいと思っています。

 

(2022/9/2掲載)

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