教えて、肺がん
肺がんとは 1)
肺がんとは、気管、気管支、肺胞にできるがん(悪性腫瘍)のことです。
気管・気管支とは、鼻口からつながる空気の通り道で、声帯から10cmくらいまでを気管といい、気管から左右に枝分かれすると気管支といいます。肺胞は、気管支の末端に位置する小さな袋状の組織で、主に血液中の酸素と二酸化炭素を入れ替えるはたらき(ガス交換)をしています。

肺がんの種類 1)
肺がんは、細胞の形や性質から小細胞肺がんと非小細胞型肺がんに分けられ、非小細胞肺がんはさらに、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類されます。発生頻度が高いのは非小細胞肺がんで4)、なかでも腺がんは最も発生頻度が高く、肺がん全体の約55%を占めています。
肺がんのうち、小細胞肺がんと扁平上皮がんの発生には、喫煙が密接に関連しています。一方で、肺腺がんは喫煙との関連が強くなく、非喫煙者にもみられます。
<肺癌の種類と特徴>
組織分類 |
特徴 |
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小細胞肺がん |
小細胞がん |
・肺がん全体の約15% ・喫煙と密接に関連 ・肺門部での発生が多い ・増殖が速く、転移の頻度が高い |
非小細胞肺がん |
腺がん | ・肺がん全体の約55% ・肺門末梢部での発生が多い |
扁平上皮がん |
・肺がん全体の約25% ・喫煙と密接に関連 ・肺門部での発生が多い |
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大細胞がん |
・肺がん全体の数%程度 ・増殖が速い |
肺がんの症状 1)
肺がんに特有の症状はなく4) 、早期の段階では自覚症状はほとんどありません。肺がんが進行すると、全身のだるさ、食欲不振、体重減少などの、がんに一般的にみられる症状や、長引く咳、息切れなどの呼吸器の症状があらわれることがあります。肺がんは喫煙との因果関係を示唆されていますが、喫煙に関連する慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎を合併している人が多く、長引く咳、息切れなどの呼吸器の症状が元から存在していることがあり、肺がんの症状として認識されないことも多いです。
肺がんの原因
肺がんの原因として最も重要なものは喫煙です。日本人の場合、喫煙している人の肺がんになる危険性は、喫煙していない人よりも、男性で4.4倍、女性で2.8倍高いと言われています。肺がんのなかでも、特に喫煙との関連が強いといわれている小細胞肺がんや扁平上皮がんでは、喫煙していない人と比べて、喫煙している人では男性が11.7倍、女性が11.3倍も危険性が高くなります。自身が喫煙していなくても、周りの人のタバコの煙を吸うこと(受動喫煙)でも、肺がんになる危険性が約1.3倍高くなるため、タバコを吸わない場合は煙を避けるなどの注意が必要です。
その他の原因には、アスベストやヒ素などの有害物質に曝される職業要因、大気汚染(PM2.5)などの環境要因、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の既往、家族にがんが多いなどの遺伝的要因が挙げられます。また女性ホルモンとの関連も報告されています。
<肺がんの主な原因>





肺がんの患者数と生存率 1)
肺がんの患者数は、年々増加しています。2017年には年間12万人以上が肺がんと診断され、罹患数の多さでは大腸がん、胃がんに次いで第3位(男性:第4位、女性:第3位)、2018年には死亡数の多さで第1位(男性:第1位、女性:第2位)となっています。6)
肺がんの5年相対生存率(図)は、2009年から2011年に肺がんと診断された症例の集計によると、男性29.5%、女性46.8%で、1993年から1996年に診断された症例の集計以降、上昇しつづけています。7)8) 今後も、新たな治療薬や肺がんの原因を探る遺伝子検査の登場などにより、生存率は改善することが予想されます。しかし、胃がんや大腸がんと比べると、生存率が高いとは言えません。肺がんは、早期の段階では無症状のことも多く、発見・診断が遅れ、進行した状態で見つかることも多いことが原因の1つと考えられます。早期発見・早期治療のためにも、40歳以上では1年に1回、肺がん検診を受けることが大切です。4)
※ 5年相対生存率:がんと診断された人のうち、5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかであらわします。6)
<肺がんの5年相対生存率>

国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告より作図
肺がんの転移・再発について
肺がんは進行すると転移を来しやすく、治療によって治癒しても再発することがあります。
肺がん患者さんでみられる転移は、肺から離れた場所(脳、骨、肝臓、肺、副腎、リンパ節など)に生じやすく、特に脳転移と骨転移の頻度が高いことが知られています。脳転移があると、頭痛、吐き気、麻痺などの神経症状、言語障害、意識障害など、骨転移があると痛み、骨折、両足の麻痺、膀胱・直腸障害などの症状があらわれることがあります。
※参考文献
1. 大江裕一郎, 鈴木健司 編, インフォームドコンセントのための図説シリーズ 肺がん 改訂第5版, 医薬ジャーナル, 2017.
2. 医薬情報科学研究所 編, 病気がみえる vol.4 呼吸器 第3版, 株式会社メディックメディア, 2018.
3. 日本肺癌学会 編, 肺癌診療ガイドライン2020年版, 金原出版.
4. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 基礎知識(https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html:最終アクセス2020年11月)
5. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 検査(https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/diagnosis.html:最終アクセス2020年11月)
6. 国立がん研究センター, がん情報サービス, がん登録・統計 最新がん統計(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html:最終アクセス2020年11月)
7. 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)
8. 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書