肺がんについて


(関西医科大学附属病院 呼吸器腫瘍内科 診療科長 診療教授)

 ※このページは、2021年2月現在の情報をもとに作成しています。


肺がんとは、気管、気管支、肺胞にできるがん(悪性腫瘍)のことです。
気管・気管支とは、鼻口からつながる空気の通り道で、声帯から10cmくらいまでを気管といい、気管から左右に枝分かれすると気管支といいます。肺胞は、気管支の末端に位置する小さな袋状の組織で、主に血液中の酸素と二酸化炭素を入れ替えるはたらき(ガス交換)をしています。


肺がんは、細胞の形や性質から小細胞肺がんと非小細胞型肺がんに分けられ、非小細胞肺がんはさらに、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類されます。発生頻度が高いのは非小細胞肺がんで4)、なかでも腺がんは最も発生頻度が高く、肺がん全体の約55%を占めています。

肺がんのうち、小細胞肺がんと扁平上皮がんの発生には、喫煙が密接に関連しています。一方で、肺腺がんは喫煙との関連が強くなく、非喫煙者にもみられます。

<肺癌の種類と特徴>


肺がんに特有の症状はなく4) 、早期の段階では自覚症状はほとんどありません。肺がんが進行すると、全身のだるさ、食欲不振、体重減少などの、がんに一般的にみられる症状や、長引く咳、息切れなどの呼吸器の症状があらわれることがあります。肺がんは喫煙との因果関係を示唆されていますが、喫煙に関連する慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎を合併している人が多く、長引く咳、息切れなどの呼吸器の症状が元から存在していることがあり、肺がんの症状として認識されないことも多いです。


肺がんの原因として最も重要なものは喫煙です。日本人の場合、喫煙している人の肺がんになる危険性は、喫煙していない人よりも、男性で4.4倍、女性で2.8倍高いと言われています。肺がんのなかでも、特に喫煙との関連が強いといわれている小細胞肺がんや扁平上皮がんでは、喫煙していない人と比べて、喫煙している人では男性が11.7倍、女性が11.3倍も危険性が高くなります。自身が喫煙していなくても、周りの人のタバコの煙を吸うこと(受動喫煙)でも、肺がんになる危険性が約1.3倍高くなるため、タバコを吸わない場合は煙を避けるなどの注意が必要です。
その他の原因には、アスベストやヒ素などの有害物質に曝される職業要因、大気汚染(PM2.5)などの環境要因、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の既往、家族にがんが多いなどの遺伝的要因が挙げられます。また女性ホルモンとの関連も報告されています。

 <肺がんの主な原因>

肺がんの患者数は、年々増加しています。2017年には年間12万人以上が肺がんと診断され、罹患数の多さでは大腸がん、胃がんに次いで第3位(男性:第4位、女性:第3位)、2018年には死亡数の多さで第1位(男性:第1位、女性:第2位)となっています。6)
肺がんの5年相対生存率(図)は、2009年から2011年に肺がんと診断された症例の集計によると、男性29.5%、女性46.8%で、1993年から1996年に診断された症例の集計以降、上昇しつづけています。7)8) 今後も、新たな治療薬や肺がんの原因を探る遺伝子検査の登場などにより、生存率は改善することが予想されます。しかし、胃がんや大腸がんと比べると、生存率が高いとは言えません。肺がんは、早期の段階では無症状のことも多く、発見・診断が遅れ、進行した状態で見つかることも多いことが原因の1つと考えられます。早期発見・早期治療のためにも、40歳以上では1年に1回、肺がん検診を受けることが大切です。4)


※ 5年相対生存率:がんと診断された人のうち、5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかであらわします。6)

<肺がんの5年相対生存率>

肺がんは進行すると転移を来しやすく、治療によって治癒しても再発することがあります。
肺がん患者さんでみられる転移は、肺から離れた場所(脳、骨、肝臓、肺、副腎、リンパ節など)に生じやすく、特に脳転移と骨転移の頻度が高いことが知られています。脳転移があると、頭痛、吐き気、麻痺などの神経症状、言語障害、意識障害など、骨転移があると痛み、骨折、両足の麻痺、膀胱・直腸障害などの症状があらわれることがあります。

 

※参考文献

  1. 大江裕一郎, 鈴木健司 編, インフォームドコンセントのための図説シリーズ 肺がん 改訂第5版, 医薬ジャーナル, 2017.

  2. 医薬情報科学研究所 編, 病気がみえる vol.4 呼吸器 第3版, 株式会社メディックメディア, 2018.

  3. 日本肺癌学会 編, 肺癌診療ガイドライン2020年版, 金原出版.

  4. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 基礎知識(:最終アクセス2020年11月)

  5. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 検査(:最終アクセス2020年11月)

  6. 国立がん研究センター, がん情報サービス, がん登録・統計 最新がん統計(:最終アクセス2020年11月)

  7. 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)

  8. 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告

肺がんは、画像診断、組織診、細胞診などにより診断します。
肺がんが疑われる場合は、胸部X線検査や胸部CT検査などの画像検査を行い、腫瘍の位置や大きさを確認します。これらの検査で異常が見つかった場合は、検体を採取し、がんの特徴があるかどうかを顕微鏡で調べる病理検査(組織診や細胞診)を行い、診断を確定します。

 <肺がん検査から確定診断まで>

画像検査はX線、磁気、超音波などを利用する検査方法で、がんの早期発見、治療方針の決定、予後(今後の病気の見通し)の予測などに重要な役割を果たします。画像検査には胸部X線(レントゲン)検査、CT検査、MRI検査、PET検査、骨シンチグラフィー検査、超音波(エコー)検査があり、患者さんの状態に合わせて、適切な検査法を選択・追加します。

胸部全体にX線を当て、臓器のX線の通りやすさの違いを利用し、肺にがんを疑う白い影がないかどうかを確認する検査です。検査方法が簡便なため肺がん検診で行われます。

体にX線を当て、得られた情報をコンピューターで解析する方法です。胸部X線検査ではわかりにくい体の深い部分の腫瘍も、位置や大きさを確認することができます。また、リンパ節転移や他臓器への転移の診断にも有用です。

強力な磁石の力を利用した検査で、体のさまざまな角度の断面を見ることができ、CTでは撮影しにくい部分も調べることができます。また、放射線を使用しないため、被爆の心配がないという利点があります。主に脳転移の検索のために行うことが多いです。

がん細胞がブドウ糖をたくさん取り込む性質を利用して、ブドウ糖に似た薬(放射性ブドウ糖類似物質)を注射し、がんの位置を確認する検査です。これだけでは正確にがんを把握できない場合があるため、CTと組み合わせてPET/CTとして行われます。

骨にできたがん細胞に集まりやすい放射性物質を注射し、がんの骨への転移を調べる検査です。

超音波を発する装置を用いて、体内の状態を観察します。胸水の検体採取時や肝臓や副腎への転移診断に使用されます。

画像検査では、「肺に影があり、がんが疑われる」ということしか証明できないため、確定診断には、がんが疑われる部位から細胞や組織を採取して、顕微鏡で詳しく調べる病理検査が必要です。それぞれの簡便さや侵襲性などを考慮して検査方法を選択します。

痰の中のがん細胞の有無を調べる検査です。肺がんの確定診断の中で最も簡便な方法で、自ら痰を容器に出すだけで検査することができます。1回ではがんが検出されないこともあるため、数日分の痰を採取します。検診で行われることがありますが、近年、肺がん治療の個別化医療への変革から組織診断(しっかりとした組織の採取の重要性)の意義が高まり、あまり行われなくなっています。

気管支鏡は鼻や口から気道に挿入する内視鏡で、気管や気管支に存在する病変の観察や、検体採取に用いられます。目的に応じて、正常細胞とがん細胞の発光の違いをみる自家蛍光気管支鏡や、超音波検査と組み合わせた気管支腔内超音波断層法(EBUS)が行われることもあります。

皮膚の上から針を体内に挿入して検体を採取する方法です。X線透視やCT、超音波と組み合わせて行います。

胸を小さく切開して、内視鏡を用いて胸腔内を観察する方法です。必要に応じて生検を行います。気管支鏡や経皮的生検で診断できない場合に行われます。

手術を行い、病変を目視や内視鏡で確認して検体を採取する方法です。体への負担が大きいため、他の検査法で診断がつかない場合に行われます。

腫瘍マーカーとは、がん細胞が、がんの種類によって特徴的に産生する物質で、血液検査などで測定すると、がんの有無や種類の予測、治療効果のモニタリングなどに役立てることができます。しかし、腫瘍マーカー検査では、偽陰性(がんが有るにもかかわらず無いと判定されること)や偽陽性(がんが無いにもかかわらず有ると判定されること)になることもあり、肺がんを特定・検出することはできません。

非小細胞肺がんの腫瘍マーカーとしては、CYFRA21-1、CEA、SLX、CA19-9、CA125、SCC、TPA、小細胞肺がんの腫瘍マーカーとしては、NSE、ProGRPが使用されることがあります。3)

肺がんの発生や増殖にはいくつかの遺伝子の異常(遺伝子変異)が関わっており、現在はこうした遺伝子変異を標的として、多くの治療薬が開発されています。
遺伝子変異を標的とした治療薬を使用する場合、患者さんのがん細胞にその遺伝子変異がなければ効果は得られません。そのため、より効率の良い治療を行うために、あらかじめがん細胞の遺伝子検査を行い、個々の患者さんにどの治療法が適しているかを検討します。肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子などの遺伝子検査を行います。5)
通常は、がんの確定診断を目的に採取した細胞や組織を用いて遺伝子検査を行います。

これまでのがん治療は、がんに幅広く効果がある方法(手術、化学療法、放射線療法)が使用されてきました。しかし、同じ治療法でも、患者さんの体質などによって、効果が得られる人と得られない人、副作用があらわれやすい人とあらわれにくい人など、個人差がありました。

これに対して、近年ではがん細胞の遺伝子変異の検査を行うことで、患者さんのがんの特徴に合わせた治療を選択する「個別化医療」が進んでいます。

※参考文献

  1. 大江裕一郎, 鈴木健司 編, インフォームドコンセントのための図説シリーズ 肺がん 改訂第5版, 医薬ジャーナル, 2017.

  2. 医薬情報科学研究所 編, 病気がみえる vol.4 呼吸器 第3版, 株式会社メディックメディア, 2018.

  3. 日本肺癌学会 編, 肺癌診療ガイドライン2020年版, 金原出版.

  4. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 基礎知識(最終アクセス2020年11月)

  5. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 検査(:最終アクセス2020年11月)

  6. 国立がん研究センター, がん情報サービス, がん登録・統計 最新がん統計(:最終アクセス2020年11月)

  7. 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)

  8. 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書

肺がんの治療法には、手術療法、放射線療法、薬物療法、緩和ケアがあります。どの治療法や治療薬を選択するかは、がんの組織型や遺伝子変異の有無、がんの進行度(病期、ステージ)、心臓・肺・腎臓・肝臓などの臓器機能、合併症、全身状態(パフォーマンスステータス:PS)、年齢などを考慮して、総合的に判断します。

<がんの進行度と主体となる治療法>

非小細胞肺がんに対する治療の基本は外科的手術です。
手術療法は、腫瘍やリンパ節の転移が切除できる病期にあり、手術に耐えうる全身状態であると判断された場合に行います。病巣を完全に切除することができれば、最も治療効果が高いと考えられる治療法です。手術は、開胸手術または胸腔鏡手術によって行いますが、より侵襲性が低く、体への負担が少ない腹腔鏡手術は、一般的に術後の痛みも少なく社会復帰が早くなることから、近年では主流となっています。

放射線療法は、がん細胞に放射線を当て、放射線のエネルギーを利用してがん細胞を傷つけ、徐々に死滅させていく方法です。メスや麻酔を必要としないため、体への負担が少ないことが特徴です。

放射線療法は、治癒を目指すための根治照射を目的として行う場合と、症状を軽減するための緩和照射として行う場合があります。緩和療法では、脳転移、骨転移、気道狭窄などに対して行います。

放射線療法の副作用は、放射線の当たる部位(照射野)にあらわれます。急性の副作用には、放射線皮膚炎、放射線食道炎があり、治療の約2ヵ月後にあらわれる副作用には放射性肺臓炎があります。放射性肺臓炎では、乾いた咳、発熱、呼吸困難などの症状があらわれることがあります。2) 無症状のまま経過することも多いですが、まれに重症化することがあるため、定期的な診察が必要となることがあります。

放射線療法は、抗がん薬の治療と同時に行う場合もあります。

薬物療法には、主に細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を使用します。

<肺がん治療に用いられる主な治療薬の種類>

体にX線を当て、得られた情報をコンピューターで解析する方法です。胸部X線検査ではわかりにくい体の深い部分の腫瘍も、位置や大きさを確認することができます。また、リンパ節転移や他臓器への転移の診断にも有用です。

分子標的薬は、がんの増殖に関わる特定のタンパク質などに対して作用する治療薬です。細胞障害性抗がん薬と比べて、よりがん細胞に特異的にはたらくため、正常細胞への影響が小さくなることが期待されています。

遺伝子検査を行い、標的となる遺伝子変異が見つかれば、それに合わせて分子標的薬を選択します。

免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身が持っている、異物を攻撃する力(免疫反応)を高め、がん細胞を排除する治療薬です。免疫チェックポイントとは、体内で過剰な免疫反応がおこらないように制御している仕組みのことで、がん細胞の中には、この仕組みを利用して免疫反応をすり抜けてしまうものがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、これを阻害することで免疫反応の抑制を解除(=免疫反応を活性化)することができます。

<免疫チェックポイントの仕組みと免疫療法>

私たちの体の中には、「T細胞」という「がん細胞」を攻撃する性質がある免疫細胞があります。免疫本来の力によって、発生した「がん細胞」を排除しています。

しかし、T細胞が弱まったり、がん細胞がT細胞にブレーキをかけたりしていると、がん細胞を排除しきれないことがあります。たとえば、がん細胞がPD-L1というアンテナを出して、T細胞にあるPD-1というアンテナ(受容体)に結合し、T細胞の攻撃にブレーキをかけるのです。このように、T細胞にブレーキがかかる仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。

免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞のアンテナに作用して、免疫機能にブレーキがかかるのを防ぎ、がん細胞を攻撃できるようにします。これを免疫療法と言います。

緩和ケアは、肺がんが原因で生じる症状や、肺がん治療によって生じる症状をやわらげるための治療です。緩和ケアは、以前は積極的な治療を中止した後に行う終末期ケアと考えられていましたが、現在では治療と並行して早期から行うことで、生活の質(QOL)を維持しながらより長い生存が得られることがわかっています。

※参考文献

  1. 大江裕一郎, 鈴木健司 編, インフォームドコンセントのための図説シリーズ 肺がん 改訂第5版, 医薬ジャーナル, 2017.

  2. 医薬情報科学研究所 編, 病気がみえる vol.4 呼吸器 第3版, 株式会社メディックメディア, 2018.

  3. 日本肺癌学会 編, 肺癌診療ガイドライン2020年版, 金原出版.

  4. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 基礎知識(:最終アクセス2020年11月)

  5. 国立がん研究センター, がん情報サービス, 一般の方向けサイト 肺がん 検査(:最終アクセス2020年11月)

  6. 国立がん研究センター, がん情報サービス, がん登録・統計 最新がん統計(:最終アクセス2020年11月)

  7. 全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)

  8. 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書

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