第三部 ヘルスケアのあらゆる領域への貢献を目指して

ロシュ、医薬品と診断薬を主軸にヘルスケア領域に注力

 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史

 

2000年代に入ると、ロシュはヘルスケアへの注力を強化するために、組織の再編を行いました。そして医薬品部門と診断薬部門をもつ研究主導型企業としてイノベーションを追求し、病気の早期発見・予防から診断・治療に至るまで、ヘルスケアのあらゆる領域に製品を提供することを目指していきます。

また2002年にロシュは、中外製薬株式会社と戦略的アライアンスを締結しました。これにより中外製薬はロシュグループの一員となり、日本ロシュと中外製薬は統合することになりました。国内では中外製薬の名前を残すこととなったため、ロシュ・ダイアグノスティックスは国内で唯一ロシュの名を冠する企業となりました。(2002年当時)

 

 

血清検査領域の統合で日本の検査室を革新

 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史- イメージ

 

2002年9月、ロシュ・ダイアグノスティックスは、生化学・免疫統合型測定装置「モジュラーアナリティクス」を発売しました。生化学項目から免疫項目に至るまでの広範な測定項目を一つのシステムに集約する「セーラムワークエリア(SWA、血清検査領域)の統合」の概念を、日本で初めて形にした製品でした。特徴は、オペレーションユニット、コアユニット、そして検体を処理するモジュールを組み合わせるモジュールアッセンブリ(組み合わせ)方式を採用し、規模や項目などニーズに合わせてカスタマイズできることです。またプログラムの入力や変更、試薬のコントロールなど一連の作業をフルバーコード化させ、煩雑な機器操作や試薬管理の手間の軽減も期待できました。

しかし同製品の国内導入にあたっては、生化学分野、免疫分野それぞれで課題がありました。生化学分野の検査室は“汎用機”を指向し、複数の会社の試薬を自由に使える機器が評価され、特定の試薬しか使えない機器(クローズドと呼ばれる)を敬遠する傾向があったのです。また免疫装置のプロトタイプ品は、日本の検査室が求める厳格な規格よりも幅が大きく設定されていました。規格についてはグローバルから専門家を招いて調整を行いました。

国内導入前の懸念に反して、「モジュラーアナリティクス」は発売後、検査室の現場から高い評価を得ることができました。目標台数も当初の予定を大きく上回り、クローズドの検査機器の優れた価値が日本においても認められた結果となりました。

この製品は検査室の効率化の実現はもとより、検査室のあり方まで革新した記念碑的なものと言えます。その影響はロシュ・ダイアグノスティックスのビジネスにも及び、それまでの「製品を売る」ビジネスから「検査室全体像を提案する」ビジネスへと変換をもたらしました。検査室全体をコーディネートする、ラボラトリー・ソリューション・ビジネスの考えは、現在のコバスシリーズにも続いています。

 

 

個別化医療の実現へ、ベンタナ社買収により病理検査分野に進出

 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史- イメージ

 

2000年代、遺伝子研究が進むにつれ、各疾患特有の標的分子を狙い撃ちする分子標的薬が次々と開発されるようになりました。それに伴い診断技術も進歩し、個別化治療へとパラダイムシフトしました。そのような中でロシュはイノベーションや新技術へのアクセスを強化し、よりターゲットを絞った治療への取り組みを推進していくことになります。2006年、ロシュは個別化医療をグループ戦略の中核に据えました。そして2008年にはがんの確定診断に用いられる病理検査を得意とするアメリカのベンタナ社を買収しました。

ベンタナ社の買収により、日本では2009年にベンタナ・ジャパンがロシュ・ダイアグノスティックス株式会社に統合され、ロシュの診断薬事業のポートフォリオに病理学的検査が加わりました。(同じく2009年には、ロシュの医薬品事業はバイオベンチャーのパイオニアともいわれるジェネンテック社を完全子会社化しました)

 

 

検査の統合 「Integration」という新しいソリューション

 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史- イメージ

 

2002年に生化学・免疫統合型測定装置「モジュラーアナリティクス」を発表した後も、ロシュは技術革新を続け、より迅速で効率的な検査、医学的に価値ある検査の提供へ向けて邁進してきました。2009年には多検体・多項目の同時測定が可能なハイスループットの生化学・免疫自動分析装置を発表しました。その後、自動分析装置のアップグレードはもちろんのこと、ロシュはより検査の効率化、検査の質の向上を目指していきます。2017年には検査前処理装置と専用の検体搬送ラインを導入、ほかにも後処理装置やデータ管理ソフトウエアをポートフォリオに加え、すべての装置が一体となって機能する自動化プラットフォームを実現させました。

 

高齢化が進行する日本では良質な医療が必要な一方で、医療費抑制という課題に直面し、検査においても生産性向上や効率化が求められています。この課題に対して、システムの自動化・統合化による検査室全体の最適なソリューションと、病院経営改善も見据えた提案を行っています。

 

 

がんゲノム医療を支援するデジタルソリューション

 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史- イメージ

 

近年、日本では急ピッチでがんゲノム医療が推進されています。2019年には「がん遺伝子パネル検査」が一部、保険収載され、がんゲノム医療を実施する医療機関も指定されました。がんゲノム医療のプロセスでは、複数拠点・複数人の専門家で構成される専門家会議(エキスパートパネル)が開かれ、がん遺伝子パネル検査の解析結果や患者の治療履歴等について総合的に検討し、治療方針の決定へと導きます。

ロシュは2017年に、このエキスパートパネルでの検討に必要な患者データの取り込み、院内や連携病院でのデータ共有、症例に関連した治験・論文情報の検索機能を有するエキスパートパネル運用支援ソリューション「Navify Tumor Board」を欧米で発表しました。そして日本においても翌2018年から準備を進め、2020年10月に発売しました。がんゲノム医療において不可欠となる膨大なヘルスケアデータの活用において、医療従事者が確信をもって治療方針を決定できるようサポートしています。