第二部 ベーリンガー・マンハイム社との統合がもたらしたインパクト

ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社誕生

 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史 

ロシュ・ダイアグノスティックスの歴史- イメージ

1998年、ロシュはドイツの大手検査薬メーカー、ベーリンガー・マンハイム社の買収を果たし、診断薬市場での世界的なリーダーになりました。試薬事業を中心に120年の社歴を誇る名門との統合によって、ロシュは一躍、試薬・診断システムのトップに躍り出たのです。この巨大な企業同士の合併は日本にも影響を及ぼしました。試薬本部はベーリンガー・マンハイム社と統合して、日本ロシュから独立することとなり、1998年8月にロシュ・ダイアグノスティックス株式会社が誕生しました。当時の社員数は450名でした。

 

 

遺伝子研究分野でのビジネス展開

 

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ベーリンガー・マンハイム社との統合によって、ロシュは、遺伝子研究分野においてもその存在価値を高めていくことになりました。ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社が誕生した直後の1998年9月、ベーリンガーが独占契約を締結していたリアルタイムPCR検査機器「ライトサイクラー」を発売しました。それまで2時間かかっていたPCR増幅反応が約20分で済むという画期性と、簡単に持ち運びができるという利便性ある製品を積んで、文字通り日本全国を行脚する積極的なプロモーションを行いました。多くの研究者や臨床医の興味を引き付け、市場に大きなインパクトをもたらした結果、日本は、発売2年目にロシュグループ内でアメリカに次ぎ2位の売り上げを達成しました。

 

2006年2月には、遺伝子を解析するゲノムシークエンサーを発売しました。454ライフサイエンス社との独占契約により実現したシークエンサーは、当時市場で主流となっていた次世代遺伝子解析ツールとは全く異なる発想によって生まれた製品で、1台で数千万塩基のシークエンスデータを短時間で得ることが可能でした。ゲノム研究のトップリサーチャーへの直接セールスや遺伝子研究の世界最先端の研究所に製品の良さを理解いただき、当時の遺伝子研究分野でのビジネス成長の柱となりました。(2021年現在、次世代シークエンサー機器の取り扱いは行っておりません)

 

 

トップクラスのシェアをもつ診断薬・医薬品の原料供給事業を継承

 

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生化学検査薬に強みがあったベーリンガー・マンハイム社は、統合前から工業用原料(インダストリアルバルク)の製造・販売を行っており、世界No.1の原料供給業者でもありました。ロシュとの統合後もこの事業は継承され、ロシュが製造していた診断薬の原料も新たに販売するようになりました。

2010年6月、ロシュは診断薬・医薬品の原料供給を行うインダストリアルバルク事業の名称を「カスタムバイオテック」に変更しました。「カスタム」は顧客を中心に考える姿勢を、「バイオテック」は最先端のバイオ技術でニーズにあった原料をお届けするという使命を表現したものです。取り扱い原料の種類は1000を超え、その殆どがGMP (Good Manufacturing Practice)グレードです。日本でも事業は継続され、診断薬原料市場のシェアは、海外と同様のトップクラスの地位を築いています。

 

 

コラム:患者中心の考えに基づくカスタムバイオテック事業は、新型コロナウイルスワクチン開発にも貢献

 

この事業は、高品質の原料を競合相手にも販売することになりますので、ともすると社内の軋轢を生みかねないものです。しかし「患者さんが必要とすることを行う」という理念の下、「良い診断や治療につながる良質の原料は、自社だけでなく、広く競合他社にも供給する。それによる市場の活性化は、患者さんや顧客はもちろんのこと、ロシュにとっても良い効果をもたらすはずである」という考えで事業を展開しています。

2012年7月にはバイオ医薬品の細胞培養工程管理に使用する代謝測定装置「Cedex Bio/BioHT」を国内で発売し、特に抗体医薬製造におけるニーズへの対応を強化しました。

2016年6月には、核酸医薬品に不可欠なmRNA製造用原料を導入。しばらくの間需要は低いままでしたが、2020年にmRNAを使った新型コロナウイルスワクチンが開発されたことで、一気に世界的需要が高まりました。またがん治療薬や医薬品開発におけるmRNAの需要に対しても、GMPグレード原料の安定供給を進めています。